思考溜り

その名の通り、ここには思考が溜る。どんなに崇高でも、下賤でも、わたしの思考の全てはここに溜る。

『もののあはれは彩の頃。』感想

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はじめに

取り敢えず現時点での冬茜トム作品はこれで全部。まじかるちゃーみんぐからさくれっとまで、全てプレイし終えた。本作はその最後にプレイしたため、どうしても冬茜トムという私個人として非常に期待の大きいライターとして記憶している状態でのプレイとなった。結論から言ってあめぐれやさくれっとに及ぶ出来ではなかったと感じた。無論他二作にはない良さは勿論あったが、それも加味したうえで評価を下した結果その二作を上回る出来ではなかったと感じた。しかしそれでも尚、彼に対して失望するということはなかった。本作は伏線の驚きやシナリオでの感動、そういったものでは確かに弱いと感じざるを得なかったものの、それは他二作と比較しての話であって、この作品単体として見れば「名作」に分類されることは間違いない出来だった。

それにその三作として見た場合でも、本作の文章はまさに圧倒的で、彼にこんな文章が書けたのかと驚いてしまった。本作は基本的に第三者の視点で物語が展開されるのだが、それを冷静に見極め、ただただ冷徹に客観的事実を語り続けるその文章は他二作に欠けていたものだった。文章のリズム、表現、どちらを取っても高い水準であるのは間違いない。

シナリオについて

共通2について、これは幼馴染4人、暁、みさき、京楓、大誠であがりを目指す√だ。しかし一番盛り上がりとしては欠けるものがある。それも当然、冬茜トムの真骨頂である技巧に技巧を重ねた緻密なシナリオではないからだ。勿論この√特有の面白さもあると言えばある。しかしプレイ前から「彼の作品として期待していた」ということと、そうでなくとも後の展開を見せられてしまってはやはりこの√の価値は個のシナリオとして見た場合落ちてしまうだろう。まぁシナリオの形式上仕方ないと言えば仕方ないとも言えるが。

共通3について、私としては一番好きなシナリオであった。というのも、本作、あめぐれやさくれっとで最も目玉となっていたことである真実の開示と絶頂に達してしまうほどの驚き。そしてこの共通3に於いて為されたのは絶頂に達してしまいそうなほどの伏線回収だった。ただ、これは飽く迄あめぐれのときにそう思ったからそう名付けただけで、本作にそれほどの驚きはなかった(それでも十分すぎるほどの展開であったことは言っておきたい)。琥珀が猫であることを利用した錯覚、さいころの出目にいち早く気付いた黎の策略、これらもまた予測不可能なことではない。しかし正確に予測するのは難しかった。それと起こった出来事を拾っていく様はやはり快感である。これならもし私が盤上に立たされていたとしても気持ちよく負けを認めることができる。「満足だ」「楽しかった」。これは黎でなくとも思わざるを得ない。加えて現実(仮)に戻った時の「悲しみのない哀しさ」、実にすばらしい。「みさき、亡くなったって」という言葉の重さと軽さ、眼前に佇むは猫一匹という滑稽さ、もののあはれの感情を引き立たせるには十分だ。

共通4について、これは以前『時計仕掛けのレイライン』の感想でも話したが、真実に迫って行く過程での「ぞくっ……」という感覚は筆舌に尽くしがたいものである。世界の真実に迫っていく暁とクレア。わかりやすく言うとこの√はあめぐれの͡コトハ√と同じ位置づけ(多少の違いはあれど)だ。それでいて最後の怒涛の展開は読み進める手が全く止まらない。クレアとの出会い別れのシーンもまた見事。どことなく儚さを見出しつつも希望をなくすことはない雰囲気が非常に巧く醸し出されている。

最後に、TRUE√について。残された真実が殆ど()明かされる。みんなが集結して力を合わせて鬼を倒す! 正直カラスがいなかったのはちょっと寂しかったかな。まぁライター的に救う必要はなかったのだろう。でだ、後半の対鬼頂上決戦! これ、どうなんですかねぇ……? いろいろ言いたいことはある。まず鬼が物部である必然性はあったかという問題(私が見逃してるだけかもしれないし、この問題は冬茜トムの作品だから気になってるというだけで別に普段から気にしている問題というわけではない)。彼との戦闘もまた私はさくれっとの加藤との戦闘を重ねてしまった(悪い意味)。後半ダレるのはまぁそうだろうなって部分もあったけど気になるものは気になる。

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(まぁここおおっ!とはなったけどさ……)

結局冬茜トムはシチュエーション作りと伏線回収が恐ろしく巧い。けどそれ以外はちょっとって部分がある。物部との決戦は微妙とは言ったもののなんだかんだで興奮したし、各ヒロインとの恋愛パートもそこまで上手とは言えないが要所要所でドキッとしたり別れをつらく思ったりはした。

絵について

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なぁ、おい……もう口あるって。どうしてそこに書いちゃうかな……。せっかくの良いシーンなのにこればっかり気になって全然集中できなかった。

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なぁ、おい……中学生か小学生あたりの見た目だな。他のところでは(顔写ってないけど)何となく年相応っぽい見た目してるのに何でこれだけこうなったんだ。

 

まぁ大きな不満はこれくらい。他は最高に可愛いですね。イラスト集としても非常に優秀かと。

声について

私は普段声について言及することはないけど主に鹿乃縁とみさきの声が良かった。前者は憎しみを込めつつ感情の緩急に完璧に対応し、後者はみさきというあどけなさと厳しさが同時に存在するのを違和感なく、対応していた。それどころかどこか癖になる。これほどお気に入りヴォイス登録が欲しいと思ったことはない。

文章について

冬茜トムの文章はあめぐれさくれっとと来てまったく期待してなかったのにいい意味で裏切られた。第三者から語られる冷徹な事実確認と気持ちのいいリズムと表現。久し振りにこのレベルのを見た気がする。

最後に

いやほんとにごめんなさい今回の文章まじで読みずらいというか心の迷いが完全に反映されてますはい。また今度ちゃんとした文章で語る記事は書きたいと思っておりますので容赦を……。

 

点数:85/100 文章:8/10 味:旨味