思考溜り

その名の通り、ここには思考が溜る。どんなに崇高でも、下賤でも、わたしの思考の全てはここに溜る。

『ジュエリー・ハーツ・アカデミア』感想、他

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未プレイの野蛮なセリオンどもはさっさとプレイしてから読んでください。

 

 

 

はじめに

ということで待ちに待った冬茜トム新作です。過去作、勝手にリープものの三部作として彩頃、あめぐれ、さくレット、まぁ実際にリープはしなかったのでそういう意識はあったりするんですかね知らないけど。

過去の三作は作品の性質上序盤から終盤にかけての主人公陣営の知識がマイナスになる。つまるところ基本的に物語の向かう先は「普通の状況であればそこまで苦労せずに手に入る情報」であり、故にこそ世界そのものであったり、文字であったり、はたまた元号であったりと、「聞けばわかる」情報が物語の根幹をなしていた。

しかしながら本作ではリープなんてないし、主人公の知識もマイナスではない。それなのに今回のメインとなるトリックもまた「聞けばわかる」情報だった。なればこそ、過去作と重なるのは「常識の乖離」であり、違うのは主人公の異質性に他ならない。では言い方を変えるべきで、「外部の人間」という異質性フィルターが実質的に消失した本作では、「聞けばわかる」という緩いガードではなく「聞かなくてはわからない」情報だった。おかげで私は主人公以外が異質であるという認識を捨て、最終的に出した結論は主人公が異質であるというものだった。直前の「僕は──吸血鬼じゃない」という発言も、種明かしの直前であったにもかかわらず私は自分に言い聞かせている言の類だと思ってしまった。そしてその後のCGを見てもなお、別の可能性を疑っていた。それは吸血行為に対する悍ましい嫌悪感とともに「一体いつそうなった?」と。私はバカだからどうせ大した推理なんてできないと分かっていたが、ここまで疑ってかかって、ここまで綺麗に引っかかっては気持ちいいとしか思えなかった。吸血鬼の存在は何度も示唆されていたし、種族間の諍いがなんらかの問題になることも分かっていた。それでもトリックを見抜くことができなかったのは流石としか言いようがなかった。

 

意志について

本作で大きなテーマとなったのは意志とそれを具現化した宝石だった。各々が意志となる宝石を身に着け、戦地に赴く。それは彼らがどんな思想を抱こうとも、根幹には決して侵されることのない強い思いがあることの表れだった。正義も悪もない、あるのは勝者か敗者か……それを体現するかの如く「敵」にも「味方」にも確固たる信念があったし、それを愚弄することなど到底できることではない。

アリアンナは、空を飛びたいと願った。しかしそれだけの願いであれだけのことを叶えるというのは尋常ではないらしい。実際アリアンナ自身の願いではない、英雄と同じ意志、超越。少なくとも単に空を飛びたいだけの意志ではないことは作中何度も言われた。だというのに私は空を飛びたい、その純朴なる願いが最硬の意志を生み出したと思えてならない。ただの利他的な思いではなく、ただの激情でもなく、唯一、その赤子のような願いが種族を背負うわけでもない、一介の多数派に抱けたダイアモンドの意志だったのではないかと、私は信じたい。最強の鉄山靠を、最硬の翼で仇敵にお見舞いするために。それは誰よりも利己的で、感情の方向こそ違えど、アストゥリオスのダイアモンドと似ているんじゃないか、そう思った。

ノアは、対照的に利他性の極致にある意志の持ち主だった。たとえ今際の際であろうとも笑顔を絶やさず、最後まで共和国の実現を信じてやまなかった。

「けほっ、けほっ! ふふ……大丈夫、です……私は──もう、為すべきことを、しました」

仲間を信じ、また自身の種族を信じた。たとえ凶弾の主が同じ吸血鬼だったとしても、いつか必ずわかってくれると。これは幼さゆえの傲慢だろうか。否、直前の演説を聞き、どうしてそう思えようか。彼女は確かな未来を見据え、後世にノア・フォン・レオンシュタインという吸血鬼の存在を遺したのだ。

みんな、意志を持っていた。それは目的であり、願いであり、別たれぬ思いの結びつきだった。強き者は肉体が失われてもなお遺志を残し、願いの成就を渇望した。そこに貴賤はなく、意志を宿す者は信じていた。自らの行いが正義なのか、そうでないのかは関係なく、ただ崇高なる願いを。

 

χについて

「ヴァンパイアは……毒だ」

「私たちは……地上に……生きてちゃ、いけないんだ」

 

「ヴァンパイアなんて、滅べばいい」

「この地上から、消えてなくなればいい」

 

「最後に、名前くらい──教えてほしいな。思い出したのなら」

「ギメル」

「ギメル・ロードベインだ」

「……きれいな、名前」

「私のぶんまで──生きてね。ギメルくん」

心優しき吸血鬼は、一人の人間の生き方を縛り付けた。無論、これは彼の意志があって進められたことだ。誰にも語らず、ただ一人、生涯で一度だけ愛した吸血鬼の願いを叶えるために吸血鬼を滅すと。即ち朔の日とは吸血鬼滅亡の日であり、32年間うちに秘められ続けた心優しき吸血鬼の願いが成就する日でもあった。

「おまえ達の理想は……相わかった。歓迎すべき未来と、賛同しても構わない」

「だが、だとしても。セシリアの願いは──成就されなくてはならない。慈愛に満ちた、彼女自身の夢ならば」

「彼女の意志に添うことこそ──おれの生涯、ただ一つの意志だからだ!!」

「黄金とは不変の象徴──あの日、空に誓った輝きを、おれは決して忘れはしない」

 

「良い吸血鬼──尊き友情──そんなものは知っている!」

「だが、それと──種で争うことは別なのだ! 我々の生は所詮、種という強大な大樹の枝先でしかない!!」

彼の黄金の意志は、あの日から欠片ほどにも変わらず守り続けてきた。セシリアの意志を。悲しくも愛した吸血鬼のために吸血鬼種を滅さんとするは彼の背負った業に他ならない。だからもう立ち止まることはできなかった。

最早彼をただのコンキスタドールとすることはできない。ああ、知っていた。でもやはり、不可侵の意志があって、たとえ誰であろうと否定することはできないんだ。

 

終盤

まぁ、こんな素晴らしい作品と思っていたのも束の間、エウリュアレが出た瞬間すべて冷めましたね。できればこのパートに目を瞑って、なかったことにしようかと思ったが、そうはしてはならないと私の意志が輝いた。

第一に、舌を出すのをやめてほしい。それだけで(仮にそうでなかったとしても)小物間が何倍にも膨れ上がる。そうでなくとも綺麗に終わったと思わせてからのこれだから、正直キレそう。エウリュアレとの戦闘自体もさっきギメルと戦った素晴らしい戦闘と同じようなものだし(その素晴らしさもギメルという非常に魅力的なキャラクターあってのもの)、こんなのを2連続で入れるのは流石にない。それでいて結局私たちだけでは倒せないのか……という展開。まぁギメルの後に来るならギメルより強いのは当然、意志を折ることで勝利を収めた先刻とは違いエウリュアレにそんなものは通じない。すると力が……! その力の根源は、なんとアトラスで戦ってるみんなが意志を空に掲げていたからなのです!!! ふっざけんなボケ!! なーーーんでいきなり元気玉仕様になってんだよ。いつそんな説明あったよ。くっさい意味不と最悪の展開。一体私は何を見せられてるんですかね……そんな気分になりました。さっきまでボロボロ涙こぼしてたのにこの部分を読んでるときは終始真顔だった。返して、私の想いを、返して!! あと意志の名前な、煌キ禍ツ貧婪ト燦爛ノ無何有郷・赤楝蛇(デッドサーペントエンドブリリアントワンダーワールド)ってなんだよ。今までコンパクトにまとまってたからよかったのにこんな長くしたらもう別のジャンルだろうがよ……それにしてもこんな長い名前をつける作品は嫌いだが。

でも、それでもここを否定しきれない理由があって、それがこの後の展開ですね。自信を犠牲にして、エウリュアレを封印するというもの。加えて第二のアストゥリオス、つまり賢者の石となって日光耐性を与え、もう一つ人間の血をまずいものとした。これで平和は完成、アリアンナの犠牲とともにノヴァ大陸は平穏を取り戻した。非常に私好みの良い展開。ああ、やっぱりこの作品は最高だ……さくレットのラストにも似た感情で感慨に耽り、さっきのゴミには目を瞑ることにした。

なのに、なのに! やりやがったぜこいつ……。アリアンナを復活させやがった! エウリュアレ討伐前まで時間を巻き戻し、神に等しい力を得たアリアンナが完全に倒しきって、終了。……ふー。画面をぶん殴りたくなりました。これの何が嫌って、結局死を否定したこと、そしてエウリュアレとかいうゴミと違って、ある程度筋が通ってる分完全に否定もできないということ。そもそもEDのパリンって演出も結構よかったし(小声)。先ず、アリアンナがいないということに気付いて世界を変えるのは少し前に同じようなことがあったということだ。このイヴェントが事前にあったぶんなまじ納得の感情が生まれてしまって否定するにしきれない、ただ感情で嫌としか言えなくなった。それに真ENDでの卒業写真、あんなの泣かないわけないだろ……。みんなが、築き上げてきたものがこうやって写真として収められて、「卒業」という形で幕を閉じる。これ以上ない幕引きで、これまでのすべてが浄化されるかのよう。長かったここまでの生を集約して、また未来へはばたく翼となるよう、願ってやまない。

しかしエウリュアレ、やっぱりてめーは何があっても許さない。パラスなんかよりもよっぽど醜い女だよ。あ

あと忘れそうになったけど最後の最後でカーラの「組織」とかいうとってつけたようなの入れたのも許さんからな。CS版追加シナリオじゃなくてFD出せや。

 

その他

相変わらず冬茜トム氏はキャラクターを魅力的に描写するのが巧い。最初はベルカとルビイが好きだったが、当然のように全キャラ魅力的に映った。そして何より本作は男女比がちょうどいい。いや、もしかすると単純な人数が多いからそう見えるだけで比率自体はさほど変わらないのかもしれないが。

一番印象的なのはヴィクターだろうか。射撃部の顧問を務め、射撃の腕は一流、それでいて自身の得物は刀というギャップ惚れ。なんだかんだでこういう系統はキャラクター的にも戦闘的にも強いですよ。実際キルスティンといい勝負をしたメイナートを圧倒したのだから、相当なものだろう。なのに教師としての在り方について悩み続ける繊細さもよき。スペシャリストであっても悩みは尽きない、等身大のヒトを見せてくれる教師の鑑。

ところでルビイの能力を吸血鬼を内部から破裂させるということのほかに吸血鬼、もしくは自身の血を使って刃を作り出すというものもあった。一方ソーマの能力は醜い生き物を灼熱に包みそのままサファイアに変えるというものだった。……同じような能力なのにルビイの方だけ妙に使い勝手良くないですかね。それともソーマの方は醜い相手、吸血鬼に限らないという点で勝っているってことでしょうかね。それでも自分の血がある限り人間やセリオン相手でもかなり戦えるルビイと比べるとだいぶ使い勝手悪いと思うんですよ。……っていうどうでもいい話でした。自身を触媒にして発火(やりすぎると自分もサファイアになる)とかだと……サファイアの火力が心配になってきますね。自己解決しました。ごめんなさい。

あと、エピソードの話。本作では個別ルートが実質的に存在しておらず、選択肢後に少しだけ会話があって、あとは別途エピソードにてえっちシーン……といった流れ(ベルカのみえっちシーンのない小シナリオあり。なんで! ほかのキャラにもあっていいでしょ!!)。エロゲとして……みたいな話は分かるけど、正直本作のシナリオ進行上一本道の方がやりやすいし、これで正解かなーって思う。でもやっぱり個別のえっちシーンないシナリオが圧倒的に不足している。特にルビイなんかは、再開してようやくお互いの進む道は交わったというところで二人の時間はあまり取れず終わり。ちょっと流石に寂しかったかな……。まぁ、それだけにルビイのキスと告白のシーンは刺さりに刺さった。愛してる……ルビイ。

……っと、私はベルカが好きだから。

関係ないけどこれってお洒落に入るんですかね。私が超絶お洒落に興味なくてかつセンスもないってだけの話ですかね。流石にそこまで自分を卑下するつもりはまったくないのですが。私にはだっさい謎の服にしか見えないよ……。あとさくレットの蓮の私服を髣髴とさせるような異常乳袋まじでやめて……。

 

 

文句ばっか言ってますが最高の作品でした。エウリュアレなんて存在していませんでした。

 

点数:92/100 文章:6/10 味:苦味、旨味