思考溜り

その名の通り、ここには思考が溜る。どんなに崇高でも、下賤でも、わたしの思考の全てはここに溜る。

『イザナギ伝承』感想

いやぁ、思いがけず良い作品に出会った、確かにそう思える作品だった。本作は知人からの勧めで気が進まないながらも手に取り、偶然にも直後気が進んだのでプレイするに至った。しかし最初、最序盤の時点では正直悪い印象の方が強かったと言わざるを得ない。というのも、この作品、最序盤から「なんかよくわからんが難しそう」な話を延々とし続ける。加えて文字がひじょーーに読みづらい。

実際に画面を見てもらえればわかりやすいと思うが、このように何故か文字を置くスペースが画面全体の4分の1程度しかない。一応設定を見てはいるが、恐らくこれが固定。そのため先述の小難しい話も相まって冒頭から辟易としてしまう人は少なくないだろう。

ただ、本当にそれは最序盤に限った話。私の場合結構早い段階で本作の纏う物語に引き込まれた。伝記モノ特有の異様さ、そういったものに対してどうしてという感情を向けるのは至って自然なことだが、本作も例に漏れず興味深い設定に関心を引き付けられてやまなかった。はじめはもっとも単純、主人公が来た村は現代とは思えないほど前時代的な価値観を持つ者たちがいた。しかしこれについては少し疑問が残るところがあった。文明の利器を恐れる素振りすら見せており、その時点では本当に文明から遠ざかった暮らしをしているのだなと思わせられたのだが、その後かなり現代的な田舎の商店街といった趣の建物の背景が表示された。一応シナリオ上は少し前(具体的にいつからだったかは忘れた)から外の人間が少し住んでいるという話ではあったので、もしかすると彼らがやったのかも……と思いつつも流石に商店街という規模は無理では……と、結局これについてはよくわかりませんでした。終わり。

こんなことを話したいわけじゃなくて、本作では読み進めるごとにこの村が神々の伝承から色濃く影響を受けているということがわかってくる。その過程で過去にその伝承に振り回され、悲惨な出来事があったということも。ここで、この時点で、伝承という曖昧な存在が少しずつ、現実味を帯びてくる。伝承が実在するか否かはさておき、この村では確かに伝承が信じられており、村人はそれを主軸に生活をしている。この秘匿された村を暴くという構図はやはりいつも私を興奮させてくれる。

されど本作の物語としての性質はそうではないようにも思える。作中終盤にて、村の人間は神の血を継ぐ者たちであることが判明した。また、主人公である澤田も神、イザナギの血を継ぐものであった。つまるところこの村は神の村であり、過去に村を襲撃した軍の者は神を襲った罰当たりということになる。そして純粋な神(?)によれば、

「まだまだ人は完全には堕落していませんでしたね」

「神の血を引くものも息づいている」

「まとうか千年」

明確な描写が存在しないので憶測にはなるが、このことから察するに穏便な終末のワルキューレってことです。多分。

今更ながら、村で封印されてたのってこの神々のことでいいんだろうか。このあたり結構流して読んでしまったのでちょっと把握しきれていない。まぁ、とりあえずその前提で話を進める。

巫女である宇美は神々を封印していた。そのことが最後まで明確な理由として語られることはなかったが、封印の先、そのまま消滅させてしまおうという算段だったのだろうか、しかし堂本からの邪魔を受け、仕方なしに封印を解く……と。しかし結果として神々は人を価値なしとみなすことはなく、また大宅湖村からも去っていった……筈。いや本当にごめんなさい。流し読みが多かったうえに明確な描写が少なかったので本当に曖昧な情報でしか喋ってないです。

というわけで結果的に大宅湖村を襲撃するに値する理由、つまるところ神の力は現状すでにその場にはなく、一応の平和が訪れた……という認識。作品全体として、弱き神と強き人間との対立構造が主な要素であるのだと思う。これが本当に好き。そういう意味で人の醜さであるとか、またそれとは別の人間らしさであるとか、そういったものがより一層強調されていたように見える。しかしながら本作においてそれらを知るための一助である心情描写が正直雑であるを言わざるを得なかった

例えば碧というキャラクターは出会いにおいてかなり拒絶の意志を示していて、仲良くなるまでは幾分か時間のかかるものだと思っていた。それなのに用事を終えて戻ってきた澤田の腕をつかみいきなり笑顔を見せた。こういった具合に心情が突然変化したと感じる描写がかなり多かった。中でもえっちシーンについてはその傾向が強く、「入れればいいんだろ?」みたいな声を感じずにはいられなかった。特に澤田の友人である橘と美琴の関係はその最たるものだった。初登場時、立花はポケットに手を入れ後ろ姿を映す形で映っており、いかにもなカッコよさを醸していた。

↑コレ この時点、クールなキャラクターなのだろうな、と私は理解した。そして立花がこの村にとどまっていた理由も、美琴に惚れたから、というもの。私はああ、そういえば澤田も村で暴漢に襲われたことがあったな、橘も同様の状況になり、美琴に助けられたか? と思いました。ええ。しかし立花が言ったことの初めは橘が美琴を襲ったというものだった。???? こいつすました顔で何やってんの??? 時代的な性、特に襲うことに対しての気持ち的なゆるさ、そもそもとして本作にはそういったシーンが多い。そのような事情を差し置いても流石におかしい。これで美琴に惚れたって、どの口がとしか思わないんですがただやっぱり男視点での愛というものは基本的に性愛に帰結するのだろうか、みたいなことを考え始めるとライター的には別におかしくはないんじゃないかとも思えてどこまで否定すべきかわからなくなってくる。ただ本作において一番違和感を覚えたところではあるので一応の言及はしておきたかった。

 

全体として、違和感を覚えるところは正直多かったものの、シナリオ自体かなり興味を惹かれるもので、実際期待には概ね応えてくれた。後半駆け足になっていたというのも理解できるし惜しい部分の一つだと思うが、ライターが本作において描きたかったもの自体は一応描き切れていたのではないかと思う。

旧時代から続く弱き神と強き人間の諍い、強き神々からすればとるに足らぬ出来事であれど、当事者にとっては重大な問題である。そして力という観点で見れば弱き神も所詮は人であり、また愚かであった。決して強き神に逆らうことはできず、本作において強き神の弱さが露呈することはついぞなかった。しかしそれが、弱き神と強き人間が手を取り合うきっかけとなることを祈る。

 

 

最後に、やべー髪型Tier1の女

 

 

 

点数:72/100 文章:6/10 味:苦味、塩味