思考溜り

その名の通り、ここには思考が溜る。どんなに崇高でも、下賤でも、わたしの思考の全てはここに溜る。

『時計仕掛けのレイライン』感想

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3部作構成の本作だが、私は一気にプレイしたため一つの作品とみなし感想を書こうと思う。結論から言って非常に面白かった。次々現れる謎としっかりそこに存在する登場人物たち、そして軽快で不安のない文章。面白くないわけがない。しかし2作目の途中、少し展開がワンパターンかと思ってしまった。というのも、そこに行くまで基本的に遺品(ミスト)という魔法道具が暴走したから回収するというのが延々と続く。ただ、勿論その中にも深く眠る陰謀を感じるような描写が少し散見されるが、如何せん情報が少ないし、何より先刻の通り基本は遺品の回収なので、やはり2作目ともなると飽きてしまう。だが、ライターもそれはわかっているのか、ちょうど私がそう思ったところで流れが変わる。それ故玉に瑕程度のもので済んだ。それからはもう一度たりとて目が離せない展開が最後まで続くので、やはり全体としてみれば私の評価は非常に高い。なお、これを当時リアルタイムで買っていたとしたら評価は少し下がることが予想されるが、意味のない仮定はよしておく。

 

 

 

 ところでこの作品は推理ものということでいいのだろうか。一作毎に問題の正解数に応じてランクがつけられるので、一応問題が提示されているということでそれを予測するという意味で推理ものだと思われる。それに何となく主人公たちが所属する特殊事案調査分室の性質も探偵のようなオーラを感じなくもないのでやはりここは推理ものとしておく。それでなのだが、仮にそうだとすると、やや展開が雑だったようにも思えてしまう。しかしそうだとすると、「推理ものの要素を取り入れたアドベンチャーが適切ではないかと思う。よしそれでいこう。因みに雑というのは各所に散らばる大きな要素をしっかりと捉えていきさえすれば、確実に正解できるからだ。ストーリー展開に関してはともかく、推理に関してはミスリードがあったとは一切感じなかった。中には悪問だと感じたのもいくつかあったが、先も述べた通りこれは「推理ものの要素を取り入れたアドベンチャー」なので、その程度は誤差であろう。

 

キャラに関して、第一印象からそれはあまり拘ってないように思えてしまったこともあり、殊更期待はしていなかったのだがその思いとは裏腹に、よくキャラが立っており、ストーリーとキャラを両立させるというライターの力量を感じさせるものだった。特に、2作目から登場するルイのキャラは作中でも随一であり、思わず笑ってしまったことも多い。

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このように毒舌キャラで、なかなかに面白い言葉選びをするのでそれもまた面白いと感じた。

 

ストーリーに関して、最初に言った2作目後半の流れが変わったところからはもう完全に目が離せなくなった。

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作中「夜の生徒」として登場する風呂屋町眠子の名前がなぜか偶然見つかった20年前の資料に載っていたというシーンだ。ここから物語は核心へと迫っていく。この時の「ゾクっ…」という感覚は筆舌に尽くしがたい。物語序盤から多くの謎を示すタイプの物語に大切なのはまさにこれだ。後半になり、ある程度情報が揃ってきたところで一つ、原子爆弾級の情報が投下される。それにより、今まで謎だった情報を確定させるための候補が出そろう。そこからは物語側も情報の放出に遠慮がなくなるために慎重にピースを嵌めていく。その作業がどうにも楽しくて堪らないのだ。

 

この物語で重要な要素は、特殊事案調査分室の‘‘仲間‘‘だ。本作の主人公は終始彼らであるということ、それは絶対的な真実であるということ。これらは決して揺らぐことはなく、ひいては本作のテーマにもなり得る。

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これは2作目のラストである。三人で責任を負おうというシーン。ここで私は飽く迄この三人が主人公なんだということを確信した。…まさか直後にあんなことになるなんて思いもしなかったが。それを含めててもやはりこの三人が主人公であって、それは何物にも侵されるものではなく、それは絶対的不可能性によって守られているということ。

 

スリード、先刻は問題に関して全くその気配を感じないと言ったが、ストーリーに関しては別だ。緻密な考えの下、綿密に組まれているというわけではないが、それでも驚くには十分なものであったと言える。特に良いと感じたのが、3作目で登場するとある遺品に関してだ。その遺品は、物を媒介にしてその持ち主の記憶を探るといった性質を持つ。これによって一番の謎であった「20年前の真実」が語られることになる。その展開の仕方がまぁ見事と言わざるを得ない。二つ、探るのだが、一つはラズリット──ことの発端になったと推測されている魔女──の記憶。もう一つはとある子供の記憶。後者に関して、初めラズリットの子供だと思われていたのだが、どうやら違う。真実はラズリットの子供が生み出したホムンクルスだった。この事実に事を運ぶために非常に多くのミスリードがなされていた。作中随一の展開にはただただひれ伏すばかりだ。

これに限らず、真実を知ってなお、このブログを読んでいるあなたがもし未プレイであるなら、ぜひプレイしてほしいと思う。というのも、既に述べた通り非常に巧いつくりになっているためそれでも十分に、いや、知ってなお遜色のない感動をあなたは味わうことができると信じている

 

ラストの展開は、さすがにウルっと来てしまった。

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「ああ、よかった…」、そうとしか言えない。やはりこれは3部作というのも利点になっているのだろう。これにより必然的に「長い物語」であると認識したため、想いが止め処なく溢れる。

そして最後の最後にこれですよ。

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いや完璧かて。

 

何度も言うように、雑なところはちらほら。しかし、ここで気を付けてほしいのが、粗ではなく、飽く迄少し雑だったというだけだということ。粗と雑は違うんだなぁ…うん。ただそうであってもかなり上位に来るレベルで面白かったのが真実。これで粗や雑さが目立つわけがないんだな。

 

 

点数:80 文章:普通 味:旨味