思考溜り

その名の通り、ここには思考が溜る。どんなに崇高でも、下賤でも、わたしの思考の全てはここに溜る。

親の仇

 わたしの父はシャンプー、母はリンスという名だ。平凡ながらも幸せな家庭で、恙なく日々を過ごしていた。しかし、悲劇はある日突然やってきた。

 わたしたちの前にリンス・イン・シャンプーを名乗る者がやってきて、父と母を殺した。わたしも殺されると思い目を閉じた。するとリンス・イン・シャンプーはわたしを抱きかかえ、以来彼が親となった。

 彼との同居は無論気持ちのいいものではなかった。加えて彼の性格は乱雑という他ない。その最たる例が、一緒に入浴している時だ。昔は父が頭を洗い、母が仕上げをしていた。しかしわたしの両親は彼に殺され、今はもういない。だから彼に洗ってもらうしかない。

 曰く、「仕上げをせずとも綺麗に仕上がる洗い方ができる」らしい。

 わたしは信じて髪を任せた。すると、どうだろう。櫛で梳こうにも、これがなかなか引っかかる。確かにシャンプーだけよりはマシかもしれないが、それでも耐え得るものではなかった。しかしわたしには頼れる人が彼しかいない。もうずっとこの生活を続けるしかないのだ。

 だが、転機は予想よりも早くやってきた。2週間くらい経ったころ、まともに梳くことができない髪にすっかり憔悴しきっていたわたしはいつものようにお風呂へ向かっているとちゅう、事件は起きた。扉を開けるとリンス・イン・シャンプーが倒れていた。見るも惨たらしい姿で。状況が理解できなかった。なぜならその横に、父であるシャンプーと母であるリンスがいたからだ。

「迎えに来たよ。さぁ、帰ろう」

 そう言ってわたしの手を引いた。断る理由はないし、自分が待ち望んでいたことだ。それなのに、どうしてか少し寂しい。たった二週間で、愛着が湧いてしまったのだろうか。あんなにもがさつで、その上親を殺した───いや、生きていた。そうだ、生きていた。つまりあいつへの感情なんて最早がさつな人、それだけなんだ。ああ、だとすれば少し可愛いと思えてくる。一緒に暮らすなんていうのはもうごめんだけど、友人として出会っていたならいい友人になれていたかもしれない。

 因みに後になってわかったことだが、これは母が企んだ計画らしい。目的はわからないけどとにかくリンス・イン・シャンプーと一緒に生活させたかったのだろうか。

 

 要約:二週間くらいリンス・イン・シャンプー使ってたけどあいつどうしようもないくそですね。あれを買ってきたマムが少し嫌いになったよ。まぁ結局もとに戻ったけど。