思考溜り

その名の通り、ここには思考が溜る。どんなに崇高でも、下賤でも、わたしの思考の全てはここに溜る。

『アインシュタインより愛を込めて』感想、他

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※この記事には妄想と気持ち悪い文言が多分に含まれています

 

 

はじめに

この作品をずっと待っていた。さくれっとよりもずっとずっと大きな期待を込めて。私の初エロゲは何度か言っているが、『はつゆきさくら』だ。大学生になったと同時にその作品を買った。それ以来事あるごとにこの作品の存在がついてまわった。単に初エロゲだという理由だけではない。はつゆきさくらが、新島夕の作品が、私の心に何か重大な影響を与えたからに他ならない。前にさくれっとの感想で似たようなことを言ったが、それとはまた別種のものである。もっと、本質に迫るような、それこそ言葉では表しきれないような変化が確かにあった。根本的に、私は彼の作品が大好きだということだ。それに私は重度の中二病をもう何年も前から患っているわけで、そんな私が彼の描く世界、人、それらに魅力を感じないわけがない。よく嘲笑含めありもしないことを妄想してるのか、的なことを言われているのはわかっているし、新島作品が万人に勧められるものではないことも重々承知している。故にこそ、ここでその気持ち悪い妄想を書こうと思う。

感想

本作はその評価を巡って多くの意見が二分化している。例えば描写不足であるのかそうでないのか、ということだ。事実作品自体はそう長いものでもなかった。10時間かそこらで終わるようなボリュームだ。フルプライスの作品としては確かに短い。だが思うに、決して描写不足であったとは思えない。抑も描写とはどのようなものを指しているのか、それは曖昧な部分があるような気がする。一応、前提として私の思う描写とは物語に於いて作者の感じてほしい感情を感じ得るまでの積み重ねである。だから描写不足と言えば私は恐らく作者の想定している感情を感じることができなかったと言っていることに相違ないと思われる。あまりに主観的すぎるし、何より人によって差がありすぎる。誰かが喜びと感じた出来事も誰かは悲しみと感じることもあるだろう。今そのような極端な話をしているわけではないが、突き詰めればそういうことだ。

ならばどうするのかと問われれば全てを無に帰すようで申し訳ないが私個人の意見を述べさせていただく。結論から言って、十分とは言い難いが、不足していたとも思わない。確かにもっとヒロインたちとの関わりが欲しいと何度も思った。特にロミ以外の個別は恋人同士の絡み合いを可能な限り削っていたとも思える短さであった。それにロミに関しても他のヒロインと比べてシナリオ自体はかなり長かったが、それでも恋人同士の絡み合いはやはり少なかった、というよりないに等しい。それでも不足ではないというのは意図していたであろう感情を受け取ることは確かにできたからだ。……この感情は決して涙を流す悲しみのようなものではない。もし新島夕がそれを意図していたのなら、流石に描写不足とだけ言っておく(公式サイトのコメントを無視しながら)。泣くにあたって必要な描写は、それこそ時間だと思う。長い時間をかけて、絆を育んでいき、最後にそれは恰も自ら思っている感情であるかのように思わせ、作中で主人公が味わった感情をそのまま自分自身が受け取ることによってはじめて涙を流すことができる。まさか本作の短い時間に於いてそのような芸当はできる筈もない。

ここで私が感じたのはもっと別の、何か高揚感のようなものだ。佳純、忍、唯々菜。彼女らのシナリオを通じて感じたものは飽く迄ロミの思いであった。

佳純

佳純のシナリオにて叔父の持っている闇の深い思惑の一端を感じ取ることができ、同時にロミはそのことを知っている可能性が示唆された。「君を助けることができなかった」。その一言で、私はロミの思いをなんとなく感じ取ってしまった。この七年間、彼女がどういう思いで生きてきたのか。抑も周太はどういった存在なのか。それらに何か深い思惑が存在していることを示唆する、それがこの√の意義である。ここに行き着くまでに周太は佳純と猛、彼女らと共に遊んでいた。勿論ただ遊んでいたわけではない。佳純との約束である試合で勝たせるということや猛との約束である頭をよくする。これらを実践していた。よく本作はサマーポケッツに似ていると言われることがあったが、その最たる例はこのシナリオだろう。話のメインであろうことをほっぽり出して、三人で遊んでいる。これはまさに紬√で見た展開だ。そして最後にこの中の誰かが消える。それがヒロインでないことが最も大きな差異だろうか。それはひと夏の思い出、まるで白昼夢のように儚い。

さて、忍のシナリオに移る。ここでは彗星機構の行っていることの一端が垣間見えた。そこに周太は従事し、4年間を過ごした。地上に出たときにはすべてが終わっていた。鍵がどうなったのか、それはわからない。しかしそんなことはどうでもいいと言わんばかりに周太の心は折れていた。機構の目的は完璧に果たされ、ロミの目的は完璧に潰えたというわけだ。シナリオ自体、ロミ√への布石でしかない。全貌を理解するうえで大切なことが、他の√では一切語られることがないからだ。そういう意味で最も重要な√ではあるのだが。このシナリオ特有の見どころに関しては、最後周太が帰ってきたときに忍が言った一言に尽きる。忍を捨てたも同然な状況で失踪した周太を彼女はずっと待っていた。何が起きていたのか察していた、かどうかもわからない。それでも彼女は待ち続けた。彼が帰ってくると信じて。

唯々菜

坂下唯々菜という少女は至って普通である。黒髪ロングで普通に可愛い顔してて、普通の成績で、普通の雰囲気で、普通のことばかり言っている普通の少女である。一方堺狩蛍という少女は異常である。彼女は自分の考えを周りに発信することができる。それも意図せず。異常者というものは得てして排斥されるというものだ。彼女もまたその例に漏れず排斥を受けた。だから普通を求めた。これは普通を求めた異常な少女の物語。それだけだ。それに機構は目を付け、彼女をメシアだと言った。実際その類稀なる能力は機構にとってまさにメシアであった。彼女自身もその呼称を違和感なく受け入れた。世界のメシアという大義名分を抱え、自らを救うメシアとなった。

抑も坂下唯々菜という少女が物語に於いて重要な存在であるために重要事項の説明は少ない。周太に起こったこととしては言ってしまえば忍√と同じである。しかしそれについて説明は為されなかった。なぜならそれにリソースを割く余裕はないほどに彼女が重要な人物だったから。だからこの√はロミの前にしてほしい。

ロミ、他

本作に於いてロミを除く個別√の意義とは、ロミにとって「あり得たかもしれないあってはならない結末」である。それは周太が他の女と付き合うだとか、そういう話ではない。佳純√で失った鍵然り、忍√、唯々菜√で失った時間然り。言ってしまえば、ロミの目的、その根幹に周太は存在しない。

「私には、根本的に彼を救うつもりはなかった」

「できるならそうしたかったけど、私では無理だって知っていた」

「彼はやがて新世界の扉を開き、遠くへいってしまう」

 「私の望みはそれを阻止して……」

「一緒に、消滅することだったんだ」

この七年間、ロミは周太を救うことをずっと考えていた。そして無理だと分かってしまった。だから、せめて少しでも周太といるためにこの道を選んだ。ロミの世界には七年前から周太しかいなかった。それでもロミは最後まで周太を救うことを考えず、果ては自らも共に消滅しようと考えた。結局人は自らの欲望に従うことしかできず、おぼれるしかないのだ。そういう意味で、やはりロミも普通の人だったと言える。もし仮に、鍵がロミにわたっていたとしたら、早々に世界は滅亡していた。なぜなら彼女もまた、凡人だから。常識的に、天才だから。そんな人は知識の深遠たる鍵を手にし、扉を開かずにはいられないだろう。抑も、知的生物である人間が知識の深遠たる鍵を欲さずその先の新世界を目指さないということ自体、もはや異常という言葉では到底片づけることはできない。にもかかわらず周太は扉を開かずのうのうと日常を過ごしてきた。周太は欲しくて仕方がなかった。しかしその欲望は欲しくて欲しくてたまらない程度のものだった。「普通の人間」ならば欲さずにはいられない代物を前にして、だ。選択肢すら通常は発生し得ない。

周太は常日頃、真理を求めていた。それが何かはわからない。真理だと漠然と言っても何か具体的なものを提示できる人はいない。なのに多くの人間はそれを渇望する。真理を手に入れたら、どうなるのだろう。科学が完成するのだろうか。でも、もし仮にそうならその世界はきっとつまらない。それでもやはり真理が欲しい。手にした後、果てしない後悔が襲ってくると分かっているのに。なぜならそれが人間だから。しかしそうならば、周太は一体何者だ? 鍵を手にしたその瞬間から、人として何かを落としたか。或いは元々人間には鍵なんてもの、手にすることさえ叶わないのか。

いや、それらはやはり人間であるのかもしれない。おじさん曰く、我々彗星機構の有している技術はこの世界の数千年先を行っている。だが鯨の有する、及び彼らの星の有する技術はこの世界の数万年先を行っている、と。Σの形状を見るに、彼らもまた、人間である。少なくとも我々と同じ見た目である。周太の脳はパンクしそうである旨を以前おじさんは話してくれた。この表現が適切であるのなら、脳には明確に容量というものが存在しているのではないか。進化と共に増やすこともできるのだろうが、現在地球に住む多くの人類は容量が足りず、人体にまでも影響を与え、死に至る。しかしその中にも莫大な知識量に適合し、生き残るものたちが万に一人いると。彼らこそが鯨を受け入れ得る容量を持つ人間なのだろう。

自らの欲望に負け、世界を破壊するなんてこと、客観的に見て絶対に間違っている。しかしほぼすべての人類は間違った選択しか選ぶことはできない。周太の父、浩太は言った。人は十分な知識を持っているのなら、絶対に間違えることはないと。しかし人類が正しい選択をするために必要な知識は多くの人類には到底手に入れることができないものだった。おそらく鯨の示す叡智の中に、それを判断し得る情報も含まれていたのだろう。だがそれすらも通常の人類ならば受け入れることはできないのではないか。案外周太も普通の人間だったのかもしれない。尤も、周太以上に普通の人間にその性質は理解されなかったが。

話の主題について

真理の探究、そして周太の葛藤である。周太はプロローグでずっと思っていた。真理を手に入れるためなら、それ以外の全てを犠牲にしてもいいと。しかしそれはしなかった。いつでもできたんだ。すっとそこに手を伸ばせば、いつでも手に入れることができたんだ。でもしなかった。何故なら悩むに値する知識を持っていたから。

真理とは、勉強することで手に入るのだろうか。

真理とは、待っていればやってくるのか。

真理とは、抑も存在するのか。

真理とは、なんだ?

実際周太がどう思っていたか、それは明確な描写がないからわからない。けれど彼が欲しているその真理とやらは、手を伸ばせば簡単に手に入るのだ。どうして手を伸ばさない?

それは周太が十分な知識を有し、悩むことができたから。勿論辛かっただろう。だが結果として扉は開かなかった。かねてからの願いである真理の探究、その気持ちを捨ててまで正しい選択をしようとした。

彼は世界を滅ぼす力を持っていながら、それはせず、のうのうと生きてきた。終いにはその銃口を突きつけ、愉悦に浸ったりもした。どこぞの彗星機構の構成員が言った言葉だ。

多分、そうなんだろう。それが周太の感情だ。それでも、理性によって抑えることができていた。いつだって彼はそうしてきた。誰にも知られることなく。その周太の思いを考え、どうして冷静でいられようか。それは主題になり得る程に強い思いだった。7年前から周太は何も変わってはいない。

ただ真理を求め、足掻いていた。正しい方法で真理を求めていた。

その他問題点

バックログがちょっと使いずらい。

さっきも言ったけど描写が足りない部分は確かにある。

主人公めっちゃ早漏

科学特捜部の存在が薄すぎる。

最後に

私新島夕の世界本当に大好きなんだなぁ……。というか彼の描く人と世界とあまりに高い親和性を感じる。主人公キモイっての結構見るけど初雪含めてその性格大好きなんだよな。特に勉強できて運動できないっていうのがまた大好き。まぁ結局は自分の価値観と合わないのが嫌ってだけだけどね。私はバカは大嫌いだし運動できる人も好きじゃない。前者は揺るがないけど後者はキャラによってまちまち。特にさ、ラストのほうで愛だなんだと叫んでいたところ、いやぁ、恥ずかしいね。好きだね。もっとやれ。良くもまぁあんな陳腐なことを大声で言えるってもんだ。最高かよ。

因みに本作の私の評価は名作……にしたい。感情がそれを望み理性がそれを拒む。正直点数をどうすればいいか今も悩んでる。確かに今年最高レベルに楽しんでた。それでもダメな部分は多くあった。一つ確定してることがあるとすればはつゆきさくらよりは下だった。それだけ。もっと新島夕には頑張ってほしかったという思いはある。君が妄想好きなだけでしょっていうのもこの記事見ればわかると思うけどある。点数だけは飽く迄客観的でなるべく万人に納得できるものでありたい。まぁ評価がここまで二分してる時点でそれは不可能なんだけど。

書き足りない部分はたくさんあるからあとから追記するのは結構頻繁にあると思うからごめんよ。追記したら一応Twitterで知らせるから見てね……?

 

 

点数:83/100 文章:7/10 味:旨味、酸味