思考溜り

その名の通り、ここには思考が溜る。どんなに崇高でも、下賤でも、わたしの思考の全てはここに溜る。

『白昼夢の青写真』感想

 

f:id:AppleSoda496:20200928203753p:plain

 



ネタばれアレルギーの人、CASE0は飛ばしたほうがいいかもね。

はじめに

ラプラシアン公式、まぁ嫌いな人も多いよね。私もその一人で、どうにも公式のあの態度は受け入れがたいものであるのは間違いない。彼らにも彼らなりの考えがあってのことだとは思う。実際「ここまでくると逆に好感持てるwww」というような意見も少なからず見かける。まさに「悪名は無名に勝る」という方針を体現していると思う。……良い意味でも悪い意味でも。

まぁそれはいいんだ。些末な問題だから。今回この作品を見送った人の中に過去作の出来が中途半端だったからだとか、公式の態度が気に入らないからだとか、そういう人がいるかもしれない。それは事実だと私も思う。ただ、もう一度、もう一度だけ、ラプラシアンの作品を手に取ってほしい。私は確かにこの作品を面白いと感じたし、ラプラシアン、そして緒乃ワサビというライターの未来を感じた。たとえその作品に関わる人たちが嫌でも、作品とは無関係だ。本作も例にもれず非常に美しい作品となった。

発売前、緒乃ワサビ氏はTwitterであったり開発者コラムであったりでいろいろなことを言っていた。大衆の納得よりもまず自分たちの納得が欲しいとか、未来ラジオみたいなことにはならないとか。詳しくはラプラシアンの開発者コラムを読んでほしいわけだけど、とにかく書きたいものが書けたし、実際かなり面白いらしい。ということで発売が楽しみで仕方なかった。購入に関しては雰囲気が非常に好みだったため早期に決めていた。発売日当日、いざ蓋を開けてみるとどうだろう、思った通りの名作だった。私は確かに緒乃ワサビ氏の可能性を感じた。やはり彼は名作を書きうるライターだった。(次も書けるかは置いといて)。名作ならば私は一人でも多くの人にその世界を体験してほしいと願う。そのためにこの記事を書こうと思う。

CASE1

f:id:AppleSoda496:20200928203654p:plain

個人的に一番好きなパート。凛の性格と見た目が好きすぎる。今年のベストエロゲヒロインは君で確定だ。シナリオも既婚者が自分の生徒と恋をするという点で妙な背徳感をくすぐられて良し。全体として自分好みの要素が多かったし、途中主人公の有島が学生時代の先輩である波多野秋房の日記を読んで深く共感するシーンでの心情描写はあまりに見事だったと言わざるを得ない。あまり多くは語らないが、有島が波多野秋房という人間に、堕ちていく様は今思い返してみてもぞっとする。

このパートは全体としてどこか諦めのようなものが漂っていたように思える。夢を諦め、ただ黙々と仕事をこなすだけの何の面白みもない毎日を生きる有島。しかし彼がもう一度夢と向き合って、諦めを追い払ってもう一度生きる意味を見つける……そんなお話。たとえ、そこに待っているのが別れであろうと。

CASE2

f:id:AppleSoda496:20200928210650p:plain

これもこれでかなり好きなシナリオだった。オリヴィアはかっこいいけどそこまで好きではなかった。ゴーストライターだったウィリアム・シェイクスピアが、ひょんなことからオリヴィアに拾われて演劇の世界に入っていくお話。CASE1と比べて物語は単純なものの、それによって面白さだけで言うならこちらのほうが上かもしれない。スペンサーの話し方が本当に気持ち悪かったけど、彼の性格自体は嫌いなものではない。美しければ何でもよい、というのは時に残酷であり、時に優しさにもなり得る。テンプレートに沿ったような感じではあるが、物語の良いアクセントになっていた。というか、良くも悪くも物語の構成が戯曲的だったともとれる。だから単純な面白さではこのパートが一番だったのかと思ったり思わなかったり。

ここでは全体として諦めずに夢に向かうということが描かれていたと感じた。決して状況はよくないのに、登場人物はみな生き生きとしており、笑顔を絶やさない。結局ここでも別れで終わってしまうが、そこには最後まで笑顔があった。

CASE3

f:id:AppleSoda496:20200928214011p:plain

これは、ひと夏の淡い初恋の物語。緒乃ワサビ氏は、「淡い」と「初恋」という言葉の意味をよく分かっていると感じた。このパートはほかのパートと比べて少しシナリオ面でのインパクトは弱いものの、その二語の意味をしっかりと弁えた素晴らしい雰囲気のシナリオだった。すももも、凛とは別ベクトルで性格と話し方が好きだったのでそれもよし。

このパートでは全体として夢に向かって道を間違えながらもがむしゃらに進む少年と、その姿に恋い焦がれる少女の姿が対比的に描かれていた。

CASE0

正直な話何もかもが予想通りの展開だった。この物語単体で見たら大したものではないと一蹴してしまっていただろう。にもかかわらず私の心は強く揺さぶられたし、読後の喪失感はすさまじいものだった。何故かと言えば、多くがCASE1~3の存在に起因する。無論シナリオそれ自体も捻りこそなかったものの、この系統の話に人類は弱いと相場が決まっているし、CASE1~3の存在を可能な限り引き出せるような構成になっていたのは間違いない。CASE3と幼少期、CASE2と青年期、CASE1と壮年期。それぞれに海斗と世凪の姿が投影されていた。加えて幼少期から共に過ごした描写を丁寧に描いているため、その分世凪に対する想いが深まった。CASE0は、今までの物語の片鱗を拾っていく物語であったのかもしれない

f:id:AppleSoda496:20200928220215p:plain

張ろうかどうか迷ったけど、紹介したかったからする。このシーン、プレイしたならわかると思うが、あらすじで紹介されていた部分だ。私は流石に感服した。ここでようやく謎だったあらすじのシーンになるわけだが、それだけなのに涙が溢れてきた。多分これ聞いても何もわからないと思うのでさっさとプレイしてください。

そしてついでにクリア後にもう一度じっくりパッケージ見てください。「こいつらセンスあるわ……」ってなるので。

最後に

CASE1~3と0の繋がりは探せば探すほど見つかると思うので、それだけでも楽しい。ここに挙げてないのもいくつかあるが、面倒だし今回は省略。

CGと音楽は本当に素晴らしかった。シナリオに関しては一部謎のままだったり、ご都合主義な部分もいくつか見られたが、それを覆い隠すレベルの出来だった思う。それにそれ自体はこの作品の本質ではないと思ったりもするので、あまり気にしてなかったりする。でもまぁもう少し最後のほうしっかりしてくれたらなぁ……。全く気にならないなんてことはないよ。

それに何度も言ってるけど雰囲気が本当に素晴らしい。どこか寂し気な印象が終始漂う本作だが、それでもこの世界にずっといたいと強く願わずにはいられない。そんなのを実質4回食らうことになるため、読後の喪失感は名状しがたい。ただ一般的に感じる読後の喪失感とはわけが違うとここまで言っているにも関わらず、言語化できないのは実に口惜しい。

本当に最後に、もしこの作品を難しそうだと思って見送ってしまった人がいるなら、それはもったいないとだけ伝えておく。私もプレイ前は複雑なシナリオなのかなと思っていたのだが、そうではなく、もっと心に直接語り掛ける直情的な描写の多い作品であった。

 

 

点数:84/100 文章:6/10 味:苦味、甘味、塩味