思考溜り

その名の通り、ここには思考が溜る。どんなに崇高でも、下賤でも、わたしの思考の全てはここに溜る。

『放課後シンデレラ』感想

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キャラゲー”としての素晴らしさ

私はこの作品を終えて流石という他に言うべき言葉が見つからない。HOOKの良さ、というのも何気ない日常に中に繰り広げられる恋愛、我々が学生時代に過ごした心から笑い合えるような日々、それらがかなり高いクオリティで詰め込まれていた。とりわけ本作はタイトルにもある通り「放課後」がテーマとなっている。その何気ない日常は放課後の寄り道にたくさん詰まっているのだということは、本作をプレイして痛いほど伝わってきた。

本作に文化祭やバレンタインなどの季節に関するイベントは一切登場しない。徹底的に放課後と学生生活、その描写にひたすら拘り続けたのだ。それによって得られたものは何か、それは恐ろしいほど自然な青春だ。今日はどの道で帰ろうか、毎日そう考え、行った先々でもしかしたら知り合いと出会うかもしれない。もしも出会えたら一緒に帰る。ただただその毎日を徹底的に繰り返した結果その恐ろしいほど自然な青春をつくりあげた。私はこのような日常をこそ、尊い日常であると言いたい。以前『この大空に翼を広げて』という作品の記事で「美しくも尊い、青春の物語」という表現をしたが、本作はそれとはまた違った方向性である。しかし尊い青春の物語であることに変わりはなく、『ころげて』は友人たちと共に一つの大きな目標を成し遂げるということ、所謂部活の青春を描いた物語であって、一方本作は学生生活を通じた友人間の青春であり、日常の青春を描いた物語である。これに於ける大きな違いは前者は非日常的であり、後者は日常的であるということ。結局のところ前者の物語は物語であって、尊い青春を描いたとは言ったものの、それを経験したことがある人は一部になってしまうだろう。反面、後者に関して言えば誰もが経験したであろう青春を描いているため、その描写に実体験が伴う。「ああ、こんなことしたな」「ああ、こういうこともしたかったな」等と、自らの過去に共感を求めることができる。これこそが学園恋愛物の到達すべき一つの模範であると私は思う。

 

本作の下校システムについて

実によく本作のコンセプトを現せていたと思う。下校時に偶然知り合いと出会い、一緒に帰る。それもやはり先に述べた青春のひととき。仲が良くなってくると相手の方から話しかけてきて、仲が深まったことを実感できることもまた良し。

尚、クリア後にいちいち帰り道を選ばなくても目的のヒロインと一緒の帰り道を自動で選んでくれるシステムが出る。私個人としてはやはり毎回選びたいとは思うものの、実際途中で少し面倒と感じてしまったため、コンセプトぶち壊しだという声を見たこともあったが英断だったと思う。

そういう意味では一周目は特定のヒロインに傾倒せず、適当に下校ルートを選んで徒然なるままに下校を楽しむことをおすすめする。そうするとおそらくBAD ENDになるかと思うが、相当忙しい人でない限りそれは許容して欲しいところ。

 

キャラクターについて

Twitter上では何度か否定的な意見を見かけたが、私としてはかなり好みのキャラクターデザインだった。特に下の画像を見てほしいのだがf:id:AppleSoda496:20200831201028p:image

…気づいただろうか、本作の絵は眉毛が髪から変に透けて見えたり、前髪よりも前に出ていたりしないのだ。これは個人的にかなりポイントが高かった。

 

個別√については陽佳≧雪子≧茉莉愛>つくし≧多乃実という順番で面白かった。

共通

終始笑いが絶えず、本当にあの頃はこんなバカなことやってたなぁ…と、実感する。言ってしまえば共通が陽佳の次に面白かった。笑い合った青春、という面に関して言えば一番だ。前述のBAD ENDに行ってほしいというのはここにもある。本作は好感度がマックスになると、自動で個別に入るため、アクションリミットが終わってない場合はその分のシナリオを見ることができない。共通や、帰宅時のモブとの会話は、見ていて全く笑いの絶えないものであるため、是非見てほしいと思う。

陽佳

私の求めていることが殆どこの√に詰め込まれていた。仲のいい幼馴染との恋愛、しかし仲がいいからこそ思い悩んでしまう問題。「もし振られてこの関係が壊れてしまったらどうしよう」という葛藤。だからこそ陽佳のこの言葉は本当に心に沁みた。

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お互いがお互いを心から信頼し合ってるからこそ言える言葉。これをとても美しい人間関係と呼ばずしてなんと呼ぼうか。

時に、あなたはギャルと呼ばれる人種をどう解釈しているのだろうか。もしもあなたがビッチだのなんだのと言うのならあなたは敵だ。即刻ここから立ち去っていただきたい。と、まぁ冗談はおいといて、ギャルとは、自らの信念を持ち、日々研鑽を惜しまず生きる気高い人のことを言う(例外アリ)。陽佳はまさにそれに値する人物だったと見受ける。…ハイ、どうでもいいですね。

ともかく、この√は本作で最も素晴らしい√だったことは間違いない。キャラゲーとしての存在価値のみならず、美しさをこの物語に求めても全く問題ないと私は胸を張って言える。

雪子

正直なところ陽佳√と比べるとここからは少し見劣りすることは否めない。しかしだからと言って価値がないかと問われれば、そんなことは全くない。無論ここからはキャラゲーとしての範疇で良いという評価に至るが、その中で非常に高い順位に位置することは忘れないでいただきたい。

この√は年上のからかい好きなお姉さんとの恋愛模様だ。実のところシナリオ的に数段魅力が落ちてしまうのだが、それを補って、描かれるみんなで笑いあった青春がかなり面白かった。共通と内容が少し被るかもしれないが、寧ろそれは好都合だ。だからこの√では共通の時と変わらず笑うことが多かった。私はこの√を一番最初にプレイしたので、初めから終わりまで終始笑いっぱなしだった。

茉莉愛

これに関しては、他とは毛色が違い、少々ぶっ飛んだ内容になっている。

というのも、まず主人公が茉莉愛の家に居候することになる。※茉莉愛はかなりのお金持ちで、豪邸に住んでいる。

基本的にストーリーはそこで展開される。一回学校に行くが、おまけみたいなものだ。

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(茉莉愛が一日だけ主人公の学校に編入した日、一緒に帰るシーン。男子高校生がいい人すぎて涙が…)

因みに、お金持ちということで親に交際を認めさせるという展開を期待するかもしれないが、お客さん、期待するメーカー間違ってますよ。そんな面倒な展開になるわけがないんだよ! 認めさせるどころか父親はただのヘタレ、母親は夫がいながら娘の恋人に手を出そうとする雌豚。…この家族終わってね? 財産しかねぇ!

つくし

つくしの小動物らしい可愛さを眺めて癒される。これだけ。

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普段の可愛い声と、偶に現れる少しドスの効いた声のギャップもまた面白い。シナリオ自体に大した起伏はないが、つくしが可愛いので許す!

多乃実

本作のメインヒロインであると思うし、何となく他より強いテーマを感じたが、どうも陽佳にあらゆる面で劣っていたと感じざるを得ない。おそらくそう感じさせる一番の要因が、他√と比べて圧倒的に笑いが足りなかったという点だ。メインだからだとは思うのだが、少し真面目にやりすぎたのではないかと思う。勿論笑えるシーンはあったのだが、後半になるにつれて話が真面目になっていき、決して悪い話ではなかったのだが、どうもメインっぽいということで最後に回していたため笑いが足りないと感じてしまった。だからこそ、この記事を読んでいて、なおかつ未プレイの人は、この√を最初にやってほしいと思う。私は悲しい偶然が重なってしまい、どうにも楽しみ切れなかった感じが否めない。可愛い子であるし、笑えるシーンもちゃんとありはした。しかし私はそれを最大限感じることができなかった。

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その他不満点

システム上仕方のないことかもしれないが、一部話の内容に齟齬が見えた。というのも、昨日一緒に帰ったのに、次の日一緒に帰るの久しぶりだね、などと言われることだ。これだけなのだが、やはり少し気になってしまう。この手のゲームにはなるべく時間に関する言葉は入れないほうがいい気がするが・・・。

 

次に告白のパターンがあまりにワンパターンだったこと。

ヒロインが主人公のこと好きだ→告白しよう→実際主人公前にして気が動転→逃げる→主人公がそのヒロインのことを考え、告白を決め追いかける→少し話して告白

・・・全√これである。ただ一点の間違いもなく。流石にこれはいただけないよなぁ。

 

これは単に好みの問題かもしれないが、個別入った後、そのヒロイン以外のキャラクターとのかかわりが、殆どと言っていいほどなくなってしまう。せっかく濃いキャラクターがたくさんいるために、これはもったいないと感じた。

 

 

不満点はいくつかあるものの、全体として見れば確実に高い評価だ。下校システムも、少し不安な気持ちはあったが、期待を超え、良い出来であった。

 

点数:74 文章:普通 味:旨味、甘味(甘味多め)