全体の話
正直な話、私はまど作品が好きではない。漠然と、それだけの感情をもって私はハミクリをスルーした。とはいえ頭の片隅にSD絵茜屋さんだしその時点で勝ち確では? という思いは無きにしも非ず。
ところがどっこい、面白かったです(完全敗北)。
まず最初に、本作の主人公はカスだ。冒頭にて妹にせがんでソシャゲの課金をさせてもらっている姿はまさしく模範的カス……! それでいて大した能力もない。特にこれと言って好きになれる要素がない主人公だった。しかしながら私がこの主人公に明確な拒絶を示すことはなかった。というのも、この主人公は潔くカスであり、変な正当性や、「男らしさ(笑)」を主張することがまずない。
エロゲというもの、及びその畑で育ったライターはしばしば謎の「男らしさ(笑)」を主張し、無駄にヒロインを、果てはこれといった脆弱性すらも抱えていないヒロインから必要のない負担軽減を促す。こういった気持ちの悪い思想を一切抱えていない本作の主人公はそれだけで魅力を感じるには十分であった。加えて主人公、及びヒロインたちの口調についても「違和感のある口調」「変に気取った気持ち悪い口調」ではなかったことは非常に好ましい。というのも、例えば育ちがいいわけでもなく、そういった環境であるために口調が映ったとかいうこともないのになぜか「わよ」「かしら」を使うようなヒロイン、それがいなかったのだ。華乃の口調は「わよ」ではあるが、むしろこれは好意的。伝わるかわからないが、魔理沙がどこでも「だぜ」とつけても違和感がない、決定的な違和感が逆に違和感を消しているような状況。そんな感覚に近い。
上記2点により、最近には珍しく作品への怨嗟が極限まで抑えられている(まったくないというわけではないが、取り立てて話題に挙げるほどのものでもなし)。
また、全体の話としても普通に面白く──大きな区切りではなく、もっと小さな文章単位での面白さ──一部除いて読み進めることが苦ではなかった。これは個別ルートがどれも夏休みから文化祭にかけてというまったく同じものをなぞっているだけであっても飽きずに読み進められたことからも強く実感する。
あすみ
先ほど、作品全体としては面白いと言ったばかりだが、このルートだけはあまり面白くはなかった。内容はVtuberのヒロインの手伝いをしたりなんやかんやあって文化祭にもVtuber使います的な話なのだが、どうにも他3ルートと比較して話の勢いが弱い気がした。またストーリー自体も正直微妙だったことから、読後感含め良い感情は浮かばなかった。
華乃
あすみルートの次に行ったので期待が下がってきていたのだが、いい意味で裏切られた。もともと変な口調も相まって良い癖のあるキャラクターだとは思っていた。しかしそれだけでなくデレたときの破壊力も目を瞠るものがあった。またシナリオも流れはあすみルートとさして変わらぬようなものであるのに、最後まで気持ちよく読み進めることができた。
詩桜
ここだけの話こいつにイラっとさせられたことは十数回ある。
なのに、なのに……ああ、このタイプがデレたらえげつないことになるなんて予想できたはずなのに……。私は彼女の優位性を否定したくなかった。それを支援するかのように主人公が告白したのは本当に素晴らしかった。そして完全に相手に優位を取らせるのではなく飽く迄対等、年の差あれど互いを認め合った気持ちのいいふたりをいつまでも見つめていたい。それだけに、ラストで君のために留年したよと見たとき首をかしげた。「それは違くない????」と。ただ、それを差し引いても告白からその後の流れまで非常に私好みのシナリオだったので満足。
妃愛
実の兄に明かす恋心、男女の仲でありながらも決して割れることのない兄妹という関係性、そのアンバランスな安定性はとても眩しく見えた。本作のどのルートよりもありきたりで使い古されたテーマでも、このハミダシクリエイティブという作品らしい妹像というものが確かに浮かんだ状態でプレイするのは格別だった。この妹の大人らしさと幼さの併存、他のルートでは決して見せなかったそれを知った「兄」としての読者。それに心打たれるまで時間はかからなかった。
とはいえ終盤の展開はよくある「いろいろあったけど丸く収まったね」が結構無理矢理感あって好きじゃなかったです()
P.S. 卵のシーンだけをずっとTwitterで見ていたせいか、笑いどころなのかと勘違いしていてからの割と真剣な場面だったのでイマイチ入り込めず困惑してました。これからプレイする人いたら気をつけてね。
CGについてちょっと
作画的にも可愛さ的にも安定感のある絵で安心して眺めることができた。しかしその安定感が思わぬ方向に悪影響を与えていたというか、この方の絵、CGにも立ち絵の安定感がありすぎて立ち絵がそのままCGになったような印象を受けた(本来それが悪いこととなる筈はないのだが)。そのせいでCGに対してありがたみを感じることができなかった(いやほんとに絵自体はめっちゃ可愛いのです)。
点数:67/100 文章:5/10 味:酸味少々、塩味少々