思考溜り

その名の通り、ここには思考が溜る。どんなに崇高でも、下賤でも、わたしの思考の全てはここに溜る。

『さくらの雲*スカアレットの恋』感想、他

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なんだか流行ってるみたいなので

未プレイの人、まだ途中の人、悪いことは言わないから大正時代にお帰り。ついでにアメイジング・グレイス未プレイの人もオーロラの中にお帰り。

 

 

 

はじめに

本当に、冬茜トムは天才だと言う他ない。アメイジング・グレイスが最初だった。その時の興奮は今でも覚えている。特に壁画の件に関しては一生超えることのできないと思われる興奮を私に与えてくれた。正直な話、本作がそれを超える展開となったかと問われれば、答えは否だ。だがそれ以上に全体としての完成度が上がっていたし、恋愛に関しても前作と比べてかなり良くなっていた。所長√のラストはどうしようもないくらいに私の心をかき乱し、決して消えることのない爪痕を残した。それは私が一晩経てば昨日の感情なんて殆ど忘れるタイプの人間であるのにも関わらず、二日経った今でも私の心に色濃く残り続けているという事実が証明している。今まではこんなことは一度たりとてなかった。成長と共に自身の感受性もまた強くなったと言われれば確かにそうなのかもしれない。しかしもし本当にそうならこれからも私の感受性は強くなり続けてしまうのだろうか。だとすれば私は命ともいえるような物語の摂取をやめてしまいたいと思えてしまう。無論、やめるつもりはない。この暗澹たる気持ちを解消するには第一に物語の摂取の一切を断ち切りきれいさっぱり忘れることだと思うが、私にそれはできない。確かにこの気持ちは生活に支障を与える程につらいと感じている。だがそれでも忘れたくはない。これほどの物語を、忘れることなどこの私自身が許しはしない。故にこそ、常に貪欲に、そして冷静に、物語を求め続けることであろう。

冬茜トムはやはり天才的だという話

先も述べた通り、やはり彼は天才的な何かを持っている。その最たる例はアメイジンググレイスの壁画の件や、本作の司に関する真実についてだろう。双方に共通するのが、どんなに疑っていてもそれが疑い得る選択肢にすら入っていないということ。そしてそれを何の前触れもなく明かすのではなく、それまでの道程でしっかりと匂わせているということ。あまりに当たり前、そう、当たり前である。彼は絶対に真実を明かす過程で無意識的にそのことを当たり前であると認識させる。「よもや、文字がないなどあり得ぬであろう」「まさか、自分のいた時代乃至世界とは違うところから来たなどあり得ぬであろう」と。事実、それを予測し、真実が明かされる前に答えにたどり着いた者が果たしてこの世にいあるだろうか。とてもいるとは思えない。もしいるのなら教えてほしい。

このシーンを見たとき、私はどちらでも、「天才だ…」と言葉として呟いていた。というより、言葉として形にせずにはいられない衝動に駆られた。それこそ先刻の驚きのように、「よもやこれほどの書き手がこの世界にいたとは…」と。しかもそれだけではない。そこに至るまでの過程に多くの謎があり、回答を示している。だがそれらは決して予測が困難なものではなく、比較的容易に答えを導き出すことができる。明確な答えとまではいかぬとも、凡そのあたりをつけることは多くの読者にできたと思う。そんな中で、原子爆弾級の、いや、それすらも上回る威力の情報を明かす。手榴弾だと思って戦ってたらいきなり相手が核使ってきたみたいな……? まぁともかくその落差も相まって驚きが増した。

だが多くの人を魅了し、天才と言わしめる彼も、どうやら恋愛は苦手であると言われていたらしい。実際私も本作プレイ前はそう思っていた。しかし本作をプレイした後にはもはやそのようなことは言えなくなった。まさに浪漫ティックであると言える最高の雰囲気を醸し出す告白のシーン、今までの積み重ねを最大限活かした所長との別れ。

特に後者に関しては涙が止まらず、前述の心への傷の大部分はこのシーンによるものだった。少し長いけれど、ここに書き留めておきたい

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「……こら、目から汗が垂れているぞ、何をそんなに焦っているんだ」

「ごっ……ごめんなさい……我慢、してたのに……なんで……ははっ……っ、っ……」

 ──だから言ったんだ。思い出したら終わりだって。

「……なぜだろうな。私の人生を振り返っても、おまえと出会ってからのことしか思い浮かばない」

「……俺も、ですよ……未来の過ごし方なんか……忘れちゃいました……」

──所長と過ごしたこの一か月が。

俺にとっては、百年の時よりも重くかけがえない。

「……あと、一分だ」

生きてまた会おうなんていうのは、はっきり言って無謀だ。

だからこれは今生の別れ。それでも愛した彼女には一秒でも長く生きてほしくて。

「だから、司も……元の時代を。精一杯生きてくれ」

「死んでもよかったなんて……もう二度と、言わないでくれ」

……俺はバカだ。同じくらい愛し合っているのは何度も確かめたはずなのに。

「おまえの生きる未来の礎は私たちが築く。だから、信じろ」

「きっとおまえを、争いのない平和な世界へと導くから」

「……っ、はい……! 信じてます……ずっと……!」

「な……涙を、見せるんじゃない、泣き虫め……私まで……つられて、しまうだろ……っ……」

……残り、十秒。

世界で一番長く続いてほしかった瞬間。

俺たちは、どこからともなくキスをして。

「さ──最後に! 所長!!」

「──なんだ。泣くなといっただろ、馬鹿者」

いつまで経っても俺は──彼女の部下から逃れられそうにない。

「俺は──俺は、あなたのことを愛しています。所長は、どうですか?」

「初歩(エレメンタリィ)だよ、司」

彼女は……ベレー帽のつばを、ピンと弾いて。

「私もおまえを、愛している」

百年先までも響き渡る、愛の言葉を囁いた──

ここにこれを引用した意味なんてそれこそ、いつかまた私が忘れたころにこの記事を読んで、誰かを想って涙を流すためだよ。

所長が好きすぎる話

これを言ってしまえば、ただの痛い人となってしまうのかもしれないが、言いたい。私はこの作品の登場人物である所長に、「恋」と呼ばれる感情に近いものを抱いていることは確かだ。先の別れ、その時以前ならばつらいという単純明快な一言で片づけていたが、今回はそうはいかなかった。はじめに、で述べた通り、二日経った今でもこの悲しみは忘れがたきものである。私は司と自分を重ね合わせ、別れの悲しみを受け入れたそのうえで自分だけのものとしてその感情を見つめた。結果、まじで最近憂鬱なんですが。助けて……。時間というどう足掻いても超えることのできない壁があるという事実があまりに悲しいのですねはい。このせいで最近私のTwitterがメンヘラ化しつつあるから早く直さんとね。自分ですら目障りって思うレベルだし。しかし治療方法がいまのところさくれっとの日常シーンを見るしかないという悲しい事実。これじゃあ根本的な解決には至らんのよ……。

で、実際どうよ

良かった。非常に良かった。ただ、個人的に個別√で事件解決後、ただただセッ……に明け暮れる毎日を過ごす彼らを見ているのは少々退屈だった。しかし所長√に関してはしっかりと愛を深める過程として見ていることができたため、良かったことは言っておきたい。メリッサも冗長と感じることはなかったし良かった。だが問題は遠子と蓮。それぞれ事件を解決した後、文字通り猿みたいにセッ……に明け暮れる。これならあと一回か二回減らしてもよかったとも思えてしまった。それぐらい冗長に感じた。

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まぁ遠子の告白シーンは作中随一だと思うのですねはい。

実際後半のあれがあまりよくないと感じただけで、前半はかなり面白かった(勿論所長やメリッサ√には遠く及ばないが)。

メリッサに関しては言わずもがな。オリエント急行の殺人は読んだことないため深く語ることはできないが、実に面白かった。犯人を当てることはでいなかったが。正直柳楽さんを完全に信じてしまっていたのが敗因だと思う。ただ、これがあったからこそ、所長√での柳楽さんを信じることができた。やはり柳楽さんは正義の人であると。あの環境と偶然が柳楽さんを狂わせてしまったのであり、決して彼の本性は醜いものではない。そして最後の超能力保持の真実。これ、他の人のブログ見る限りだと分かってたという人が多かったが、私は全く分からなかったというか、気にもしてなかった。絶対加藤だろうと。あまりにあからさますぎるが、一番の目玉以外はそのくらいだと。だからこそ、私の心情は司と重なっていた。超常現象などあり得ない、と。自分という例外があったにもかかわらず。しかし私はそれも含めて例外であると思っていた。その中でこの事実は流石に驚愕した。

所長√、最高という他ない。これまで所長と過ごしてきた懐かしい日々、このあまりに尊い物語を饒舌に持てる語彙の限りを尽くして語ることは今の私にはできない。

時に、物語序盤、所長が司の猫の名前を聞いた。

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この意味がいくら考えてもわからない。いや、ベッキーレベッカの愛称であることは知っている。ただ、司がこの時所長の名前を知っていたと思わせる描写はなかったと記憶している。もしそうでないなら名前同じなのか~的なことを思ったのかもしれないが、そうではない。ならば結局この会話の意味とは……。

それと加藤との最終決戦。これもあまり好きではなかった。非常に面白いものであるのは間違いないのだが、、、いや、巧いとも感じた。けれど、何か、引っかかるというか、誰かこの感情の言語化をお願いします。

…………わかってる。嫌いだって言いたくないだけだ。嫌いです。この展開。

最後に

歪み、それは桜雲という時代の存在が発覚した後も、桜雲に至る道の阻害かと思った。しかし最終的に私は令和に至る道こそが正史であり、桜雲という枝そのものが歪みであると思った。それは偏に加藤の存在がある。加藤は司が来るよりもずっと前、少なくとも5年以上は前から大正に来ていた。司はアララギに歪みを直すようにと呼ばれた。加藤はおそらく自分の意思でタイムマシンを使った。アララギと加藤が対話する場面はあったが、加藤にも昔歪みを直すよう言っていたとか、そういった類の会話は見られなかった。だから多分、加藤という存在そのものが歪みであるということ。

抑も戦争のない世界を作ると決心したことをアララギに話した時もアララギは何も言わず肯定的に受け止めた。終いには協力すらもした。ならばやはりアララギから見ても司たちは絶対的に正しい行為をしている、つまり歪みを直しているということに繋がるのだろう。それなら司がこの時代に来たのも歴史の必然である、というのは流石に穿ちすぎだろうか。まぁ私はそうだと思っている。激動の時代だからこそ、少しの横やりで崩壊してしまう。それが加藤だったのだろう。ただしそれが少しどころではなかったため、歪んだ歴史こそが正史になろうとしてしまった。故に再度大きなメスを入れないと、元の歴史には戻れない。それが司の存在であり、司と所長の子供だったのではないか。

 

 

 

 

P.S.まださくれっと序盤のころ、司の誕生日と所長の手紙を照らし合わせてみてというのを見た。今になって涙が溢れてきました。それと合わせてエンディングの言葉はずるいよ……。

それと櫻の樹の下に関して、フォロワーが秀逸な考察をしていたので、それを推しておきます。

 

点数:87/100 文章:5/10 味:旨味、酸味、苦味少々

参考:アメイジング・グレイス;87/100

技術のアメグレ、シナリオのさくれっと。伏線回収とその驚きはアメグレが強いものの、単純なシナリオとしてみれば、さくれっとに軍配が上がる。