
今回はアステリズム。なんとなく名作感あるし、評価も割と高かったので期待高め! てことでいきましょー。
正直、一章がそこまで面白くなく、まぁとはいえ最初の最初、情報提示、それも最低限の前提の部分であるためにそうなってしまうのは仕方ないだろうが、日常シーンをとって比較しても以降の章よりもなんとなく退屈な気持ちが大きかった。ひとまずここでは主人公白雲が姉、名月を好きなことはこれでもかと伝わってきたし、実際本章の役割はそれに尽きるのだろう。
で、二章。ここからが本題。一章最後にて姉が死んだ、そのためにふとつるされた蜘蛛の糸を掴むように、タイムマシンに乗り込む白雲。分かりやすく物語は動いているし、新しく登場した九厘というキャラクターがとてもいい味を出していて、退屈しなかった。
最後に三章は、流石に面白い。なるほどというかなんというか、この手の作品の醍醐味でもある今までの要素が収束していく感覚、これまでではこうかも? と思わせるだけだった点が次から次へと繋がっていった。こういった展開的な魅力も持ちつつ、やはり本作は白雲が名月を想い続けた先の結末の世界である、という点。一章においては直接名月に振られたためにあきらめざるを得なかった、二章においては名月ではないところへ行くにあたって現代への帰還を諦めた。当初の目的がそうであったように、このタイムトラベルは名月のためにあった。
であるにもかかわらず、三章では、その目的がある種欠落した状態であった。というのも、そもそもの目的は一章ラストにて過去の事故に起因した病気を起こさせないためにその事故を阻止した。そして現代ではすでに「白雲」が存在していた。このときの白雲は、すでに存在しており、自分はもはや異物でしかなかった。
姉さんを守ったひきかえに、俺は未来を失った
その笑顔をもう見られないのは残念だけど、
さようなら、姉さん。
姉さんの幸せを心から願ってる。
このときの白雲は、もはや未来を持ち得なかった。ゆえに博士の未来を手助けし、自身を諦めた。きっと、自分ではない「自分」が、姉さんを幸せに、姉さんと幸せになってくれると。最後だから、だろうか。今まであれだけ大事にしていた名月と博士の目的とを天秤にかけていた。二章の途中で、博士が「お兄ちゃん」のことをパートナーである旨を話したことを覚えている。今にして思えば、あれがどれほど心のこもった言葉であったか、否が応でも知ることとなった。
そもそもの時間軸として、本作における歴史の在り方は少し複雑なものであるが、まず一章、そして二章にて出会った博士について、彼らは自身を凪鏡一郎と名乗っていた。同時に、白雲に対する恩義を感じていた節があり、協力を惜しまなかった。対して三章初めに出会った博士と三章タイムスリップ後に出会った博士は、加々見利通としての側面が強い。これは、博士視点での話としては、三章にて出会った博士は加々見音々を救えなかった、最も手前の時間軸の加々見利通であること、だからこその対等な関係性。逆に一章二章での博士は、すでに加々見音々を救えた世界であり、だからこその恩義。ことの構造として博士は展開が進むにつれて時間軸が手前に戻っているとみてよいだろう。対して白雲は、当然だが、展開が進むにつれて時間軸は当然のように前に進んでいる。そして名月も、もちろんタイムスリップなんてしていないので、章を追うごとに若返っている。
色々な要素で構造がこんがらがってしまっているが、根本の記憶、それは変わっているとは思えず、名月の信じる過去の出来事は、すべて作中にて描写された白雲であり、凪鏡一郎の過去は、語るまでもなく白雲との関係に尽きる。
名月は、出会ったばかりの「お兄ちゃん」を殊更に信用し、愛情を見せた。彼女に過去、未来の記憶はないが、だが、それでも白雲という存在になにかを感じ取ったのではないかと考えずにはいられない。
幼少期の名月も、高校生の名月も、白雲に恋をし、白雲は姿を消した。また会えると言葉を残して。名月は三度、同じ人に恋をした。それは運命だったのか、どこへ行っても必ず名月と白雲は出会った。その永きにわたる恋を築いたのは、やはり三章の白雲であり、この物語を作り上げたのは主人公である白雲なのだろう。最終的に最も最初に認識された現代へ戻った白雲だったが、記憶は混同しており、されど「お兄ちゃん」としての記憶はなかった。本作における感情の基盤の多くは、「お兄ちゃん」によって形成されたものであるにもかかわらず、その心はついぞ現代に帰ることはなかった。
結局のところ博士は、命を賭してまで自分と、その大切な命を救ってくれた白雲に対して、多大なる恩義を感じていただけだった。考えれば考えるほど、博士の胸中は冷静ではいられない。
名月にとっては、震災という極限状態の中、死別を覚悟しつつも、また会えると約束してくれた「お兄ちゃん」を想い続けるのは自然だ。であるならば、「お兄ちゃん」とうり二つの白雲に対して、また彼女は何を思っていたのだろうか。
先にも言及したが、作品全体の構造として、主人公白雲は物語が進むごとに時間が進んでいるが、対して二人のキーパーソンである博士と名月、彼らは物語が進むにつれて時間が逆行している。れによって「あのときの真意」を拾っていくという物語進行がなされている。点と点を追っていき、あるときすべてが繋がる。白雲は無知の側の人間であるが、進むにつれてことを知り、やがて当事者となった。そして当事者となった最も読者のよく知る白雲は、もっとも過去となる場所で消えていった。彼の願いは姉、名月が生きていること、そして幸せであることだったが、それはきっと、自分ではない「白雲」が果たしてくれることだろうと。
我々読者の視点で、本当の意味での白雲は「白雲」に願いを託し、またすべてを知る博士は、「白雲」に尽くした。かつてともに生きた仲間の願いを叶えるために。だから私は、今残された大切な想いを大事にしたい。
死を前にしたとき考えることは諦めか、足掻きか。願いは成就することが重要であって、成就され得ないと知った願いは、唾棄されるべきなのだろうか。白雲はもう既に長くないと知ったとき、博士の願いを叶えることを望んだ。しかし、それでも、名月とともにいたいという気持ちは捨て去ることができなかった。だから、託した。博士の願いは、きっと果たされていることだろう。きっと、名月の生きているだろう。自分が、自分だけが、この世界に取り残されてしまった。だけど、想いを託せる人はたくさんいて、絶対に、これまでの行動は無駄ではなかったんだって、そう、思える。
これらは当初、本人さえも滅私の行動であると認識していたようにも思えるが、最終的にそうではなかった。先述の通り、白雲の在り方は確かに名月と博士に影響を与え、未来を描いた。
点数:78/100 文章:5/10