思考溜り

その名の通り、ここには思考が溜る。どんなに崇高でも、下賤でも、わたしの思考の全てはここに溜る。

同窓会1

 ぼくはきっと、何かに甘えていたのかもしれない。
 いつの日だったか、君に言ったことがある。高校は違うけど大学では一緒に東大に行こうって。いけると思ってたんだ。だけど──やっぱり甘えていたんだろうな。過去の成功体験に縋って、自身の研鑽を怠ったことはもはや明らか。
 正直言ってぼくは格好悪いよ。東大に行くって大きな声で宣言して内部推薦を蹴ったにもかかわらず、結局一般で受けて付属の大学に通っている。別に今通ってる大学が悪いとか言ってるわけじゃない。寧ろぼくみたいな無能がこんないい大学にかよわせてもらえてることに感謝してるくらいだ。
 だけどそうじゃない。客観的事実が問題なわけじゃない。だからこれは単なるエゴ、ぼく自身のまったく個人的な問題でしかない。
 だってこんな、調子に乗ったようなことを昔のぼくが言ってなければ現在抱えている精神的な問題はあらかた解決するのだから。自分で自分の首を絞めている。単なる虚勢──だとは思っていなかった。いけると思ってた。その思いに偽りはない。だが事実としてぼくは第一志望に落ちた。目標に向かって、適切な努力をすることができなかった。
 怖い。真実を君に打ち明けることが。
 怖い。同級生たちからの嘲笑が。
 怖い。みんなからの同情が。
 ……わかってる。みんなは優しいからこんなこと言わない。それどころかおめでとうって、心の底から祝福してくれると思う。自惚れなんかじゃなく、そう確信してる。だけど、そうじゃない。そうじゃなくて、さっきも言ったけど、これはぼくのエゴなんだ。みんなはこう言うに決まってる、その程度じゃ何も安心できない。
 もし、みんながぼくを祝福してくれる中、一人、たった一人ぼくを嘲笑う人がいたら?
 もし、昔のみんなとは変わってしまっていたら?
 不安の種は尽きない。確認する術は実際に行って確かめるしかない。でもそんなことはしたくない。
 お願いだ、どうすればいい。とにかく怖いんだ。ぼくはバカだよ。でもだからこそみんなよりも優れていたい。どうしようもないエゴの鬼だ。

 

「はぁ……解決策なんてない、いいから来い。みんなあの時のクラスで集まれること楽しみにしてんだ。そこにお前が抜けたらなんの意味もないだろ」
「いやまぁ、そうだけどさ……」
「分かってんなら来いって。さっきも言ったけどお前のそれに解決策はない。ただの我儘。自分で言ってたろ。それにお前だって行きたいんだろ? 今回行かなかったら絶対後悔するってわかってるんだろ?」
 ずきりと刺さる。本当は行きたい。確かに行きたい。みんなと会いたい。行かなかったら絶対に後悔する。そんなことに比べたらぼくの考えていることなんて些事もいいとこ。
 でも、心は一向に動かない。嫌になる。ここまでくると怖いという気持ちよりも今更意見を変えるのも違うという気持ちになっている。
 そうなんだ、行きたいと思えばあの頃の懐かしい記憶が蘇って、本当にぼくの中で些事として処理できる。
「黙るな黙るな。で、どうするんだ。行くのか、行かないのか?」
「……」
 また黙る。
「はぁ……ほんっとうにお前はどうしようもないな。分かった、これで最後だ。当日俺がお前ん家まで迎えに行ってやる。一緒に行こう」
「え、いや……それは……」
「拒否権はない。いいから当日準備しとけよ。俺が友達思いでその友達のことをちゃんと理解しててよかったな。他の奴ならこいつ本当に行きたくないんだって思われるぞ」
「ああ、うん……」
 そのまま去っていく慎司を見守る。すると急に振り返って、
「本当に今回が最後だからな! 次からは絶対に助け舟は出さない。分かったな?!」
 きっとまた助けてくれるんだろうな、そう思わせる態度で言い残した。